普通環境で育たないとヤバイ!臨界期を過ぎた子供への悪影響
動物には「進化的に予想している環境(EEE)」があると考えられており、その環境で幼少期に育たないと学習できないか、学ぶことが非常に困難になる能力があります。
この期間を臨界期と呼び、人には臨界期を過ぎると学習困難になる能力がいくつか確認されています。
そこで幼少期に臨界期を過ぎて学習できなかった場合、どうなるか紹介していきます。
片目を塞ぐと両眼視できなくなる
ヒトを含めた霊長類では「両眼視」が発達しています。
これは進化的に樹上生活が長かったせいで、両眼視のおかげで立体的な空間を認識するためで、両眼視は進化的なものなので臨界期があります。
例えば、サルの片目を子供の頃から遮断してしまうと、両眼視のための神経回路や脳構造は大きく変わります。
通常は左眼と右眼からの入力を受けるニューロンが豊富にありますが、左眼を遮断するとニューロンがほどんどなくなり、右目からの入力だけを受けるニューロンが大多数になります。
両眼から入力を最初に受ける第1次視覚野を含む大脳皮質は、幼少期に選択的発達過程(脳の成長のために栄養を奪い合う)が大きく進行するので、両眼視の臨界期も幼少期となります。
サルだと場合は生後3ヶ月間が最も重要な期間で、ヒトに換算すると生後4〜5歳頃までが両眼視の臨界期です。
そのため、この臨界期に人間の乳児が幼児白内障などで片目でしかモノを見ないで育ち、5歳以降になって白内障が治っても、両眼視の能力は生涯ほとんど発達しません。
ただ臨界期を過ぎても可塑性をもつので、その後の環境や訓練によって両眼視の能力は多少なりとも身につけることができます。
言葉に囲まれないと言語が理解できない
音声言語はヒトの大きな特徴で、「幼少期に音声言語に囲まれる」というEEEは重要です。
言語能力には「音声言語」と「文字言語」があります。
音声言語の進化的な歴史は、長くて約200万年、短くても40万年ほどで、文字言語は6000年ほどの歴史しかないので、音声言語の環境にはEEEがあって、文字言語の環境にはEEEがない。
そのため、文字言語は自然に身につかないので高度な計算も含む「読み書き算盤」は、それなりの教育が必要です。
逆に音声言語は「音声言語に囲まれた環境」があれば自然に身につきますが、臨界期もあります。
音声言語の臨界期を超えた症例には「野生児」や「虐待」「聴覚障害」があります。
有名なのがアヴァロンの野生児ヴィクトールで、1797年にフランス南西部の町で見つかった少年です。
それまで独りで森林に住んでいた推定12歳の少年は、1800年から人間社会で暮らすようになり、パリで5年ほど医師による熱心な教育を受けましたが、言葉をほとんど習得することはできませんでした。
虐待ではアメリカのカリフォルニアで1970年に見つかった1957年8月生まれのジーニーという女性です。
彼女は生後20ヶ月から13歳まで小部屋に閉じ込められて、ほとんど言葉に触れないという環境で育ちました。
その後、手厚い看護がされリハビリも受けましたが、彼女の言語能力は3歳児以上になることはありませんでした。
これらの症例を踏まえ、音声言語を担う脳構造の神経回路の発達過程をみると、音声言語の臨界期は8歳ごろまでと思われています。
また、音声言語と文法に深く関わるブローカ野は、言語の深層構造(言語の原型である普遍文法)を担うように進化してきました。
なので、音声言語の臨界期を過ぎて第1言語を習得しておかないと、第2言語である外国語の習得は非常に困難になります。
絶対音感は言語と空間的能力に深く関係する
歌や楽器演奏などの音楽は、進化的にはどうでもいいことように思えますが、音楽のない民族がほとんどいないことや、世界中の人類集団のほとんどが音楽を持つことから、何かしらの進化的な意味があると考えられていました。
それを示唆しているのが、幼少期から音楽教育を受けたプロの音楽家の脳は「音楽家脳」という独特な特徴です。
音楽家脳を持つプロの音楽家は、アマチュア音楽家や非音楽家とは異なった仕方で音楽を処理し、音楽に関する脳領域の神経回路がより発達しています。
近年の研究では、音楽は「言語」や「空間的能力」とかなり関係深いことがわかっています。
音楽の臨界期に関する代表的な研究が「絶対音感」です。
この絶対音感の臨界期は、8歳以下から音楽の訓練を受けると40%ほどが絶対音感を習得できる一方で、9歳以降では3%程度しか身につけることができません。
さらに臨界期内で音楽教育を受けても40%の子供しか絶対音感を身につけることができないのは、遺伝の影響です。
つまり、絶対音感を身につけるには、遺伝と「幼少期に音楽に囲まれた環境」というEEEの相互作用が必要なのです。
ここからは私見です。
音楽は言語とかなり関係が深いらしいのですが、個人的にも音楽ができる人は「さしすせそ」などの発声が苦手という人が少ない、あるいは外国語での会話がうまいように感じています。
これは絶対音感や相対音感を身に付くことで、発声の微妙な違いを理解できるからなのかもしれません。
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